[リアル] REPORT&DIARY

井上雄彦観戦記

2015.11.19

特別寄稿 井上雄彦シンペーJAPAN観戦記

●10月17日。3位決定戦、日本対韓国。

予選ラウンドでの韓国戦を見て、日本の方がいいバスケをするという感想を持った。 韓国はほぼスタートの5人に頼った試合になっていた。 チームの厚みでも日本に分がある。リオ行きの最後の一つの椅子をかけた試合、日本有利はまちがいない───。

そうであってくれと祈る気持ちで、いや実際神棚に手を合わせ必勝を祈願してから、千葉ポートアリーナへ向かった。

やってはいけないことは、2つ。

1つは、自らややこしくすること。不確定な要素を増やさないことが必然の勝利へと導く条件だろう。

もう1つは、受けに回ること。感情をあらわに闘う姿勢を見せてくる傾向のある相手に感情的につきあうことはないが、かといって引き下がってはいけない。

このふたつを回避するための答えはやはり、「自らを信じ、チームを信じて、やるべき自分たちのベーシックを遂行する」というあたりまえにたどり着くのだった。 あたりまえをあたりまえにやり続けることは、言葉ほど簡単ではない。

試合は緊張感の中で始まった。 開始直後の観戦メモを見ると、

「ルーズ(ボール)はぜんぶとれ!」

「あたりまえを全身全霊で」

と走り書きがしてある。

韓国が先行する形で試合は進む。 攻守の切り替えのところで走られてイージーバスケットを立て続けに許し、日本15-韓国24で1クオーターを終える。

(だいじょうぶなのかよ)と観客席がたぶん気をもんでしまうほど、日本の選手たちもベンチも焦っていない。 (韓国つええな・・)という会場の空気の中で、自らを信じ、チームを信じて、やるべき自分たちのベーシックを遂行する。 日本チームはまさにそれを遂行している最中なのだった。 前半残り3分を切ったところでその成果はあらわになった。

依然として韓国リードだが苦しそうなのはリードしている韓国の方だ。 10番のミドルで韓国の32点めが入る。 そこから2分23秒間、韓国の得点は増えず、日本は5ゴール10点を積み上げる。 一気に会場の熱が上がる。38対32で前半の20分が終了。 韓国はほとんど5人で闘っている上に、得点源の12番がファウル3つ。 あと2つで退場となる。予選ラウンドで勝利したときには、3クオーター終了時点に韓国の余裕は消えた。 今日はそれよりも早い、前半終了のこの時点で、日本は韓国を追いつめた。

後半の日本、やってはいけないことは2つだ。

・自らややこしくすること。

・追いつめられ激しくファイトしてくる相手につきあわない、かつ引き下がらないこと。

つまりはやるべきベーシックを遂行することだ。 あたりまえをあたりまえにやり続け、相手が息を吹き返す要素を1つも与えないことである。

言葉よりも難しいことを、いくつかのミスをまじえながらもやり切った日本が、リオデジャネイロパラリンピックの出場権を得た。 その権利にふさわしい方が今日は勝った。 試合後すぐに及川ヘッドコーチは、「ここをベースに、ここからさらに上げていくこと」をリオまでの1年間の課題としてあげた。

この日会場につめかけた人のうち何割かは、初めての車イスバスケ観戦だったと思われる。 満足感に包まれて会場をあとにしたことだろう。

「このチームのたどり着く先を見届けてみたい」と思った人が何人もいるにちがいない。

2015.10.17

井上雄彦AOZ日記 3

2014世界選手権王者のオーストラリアを倒せば日本のリオパラリンピック出場が決まる。王者打倒の期待は高まっていた。選手、コーチも自分たちはそれができると信じていた。

その望みは第3クォーター残り4分、一度は縮まりかけた点差を再び20点に広げられたところで絶たれた。

力の差はあった。選手同士が接触して動かないように見える場面があるが、その時両者は押し合っている。オーストラリアの選手は重く、力が強い。当たりの強さ、激しさは今大会のどのチームよりも抜きん出ていた。

トランジション(攻守の切り替え)の速さ、シュートの正確性の差も、そのまま点差に表れた。

自分たちのやるべきことをやりきれば相手が崩れる、そう信じてがっぷりと組み合った結果、こちらは思うようにはやれず、相手は崩れなかった。

日本のリオパラリンピック出場は明日の3位決定戦に持ち越された。

相手は韓国に決まった。 もう一度、自分たちのベースにあるものを信じて、それをやりきる試合になる。今日のように力負けする相手ではない。

気のいい日本のあんちゃんたち、明日の40分間は意地悪であってほしい。残り一つの席をつかんで、離してはならない。

井上雄彦
10/16/2015



海外プレイ経験の長い香西をして、顔を歪めるオーストラリアの圧力


高さ、シュートの正確さもオーストラリアの大きな武器


ゲームメイカーのベテラン藤井と

2015.10.13

井上雄彦AOZ日記 2

第2クォーター5分過ぎ。韓国チームのいい流れが続き、彼らのリードが8点と広がったところで巨漢のエース⑦キム・ドンヒョンの咆哮がコートに響いた。

日本にとって韓国代表が格下だったのはもはや過去の話。4年前の韓国で行われたロンドンパラ予選での死闘で日本は薄氷の勝利を得たが、苦い負けを味わった韓国は、日本との力の差はもはやないという確信を得た。事実、その後の韓国は日本に3連勝してこのAOZを迎えている。勢いは韓国にあった――。

しかし日本に動じる様子はない。やるべきことを確かめながら、自分たちの絵を着々と描き進めているような印象を受ける。

22-27の5点ビハインドで後半へ。

日本の大黒柱藤本がよりゴールに近いところでシュートできるようになってきた。日本のディフェンスは相手の得点源に楽なシュートを打たせない。

真綿で首をしめるようにジワジワと韓国チームの自由を奪っていく。及川HCは昂ぶる様子をまるで見せない。韓国のほとんどのポゼッションは24秒ヴァイオレーションギリギリの望まぬ形のシュートで終わっている。

最終4クォーター、韓国チームは手詰まり化。前半に見せていた余裕の表情はどこにもない。 日本チームが描いてきた絵がいよいよ完成の時を迎えた。

55対48。後半のスコアは日本が33、韓国が21。

対韓国戦の連敗は止まった。リオパラリンピック出場へ、一歩近づいた。

勝利以上に大きいのは、難敵韓国相手にリードされても慌てず騒がず、自分たち自身を信じ続けて、狙いどおりの試合を遂行したことだ。

日本代表は新たな次元に入ったと感じた。

井上雄彦
10/11/2015



韓国のエース、キム・ドンヒョンをディフェンスする香西


後半に入って藤本のシュートが決まりだした


平静な表情で戦況を見守る及川HC


コメントブース前で香西(左)、鳥海(中)、豊島(右)と


試合終了後の取材でようやく笑顔を見せた及川HC

2015.10.11

井上雄彦AOZ日記 1

開会式直後の初戦の相手はタイ。

試合前の及川晋平ヘッドコーチの表情には、緊張感の中にも確かな手ごたえが見て取れる。これまでで最高のチームに仕上がったという実感からだろう。

試合はまるで合宿の延長のようだ。選手たちはチームの約束事の確認をしながら終始落ち着いた様子でプレイしている。開始3分40秒が過ぎたところで5人全員のメンバーチェンジ。ベンチの層の厚さを物語る。 時々ディフェンスのミスが見られタイに得点を許すが、これはタイが得点を決め切るだけの良い仕上がりで臨んできたということと、及川HCは素直に相手を称えた。

80対59で初戦を勝利。

行き着く先をしっかりと見据えて、大きな船がゆっくりと船出した。

井上雄彦
10/10/2015



試合後に香西(左)と鳥海(右)に話を聞く


ミックスゾーンで及川HCのコメント取材

PLAYERS PROFILE

Men

page top